解約率を下げるリテンションマーケティングの実践

1. はじめに:なぜリテンションが重要なのか?
これまで多くのビジネスは「新規顧客をいかに増やすか」に注力してきました。しかし今、多くの業界で顧客獲得コスト(CAC)が上昇し、競争が激化しています。その中で注目されているのが「リテンションマーケティング」、つまり既存顧客との関係を深めて“長く続けてもらう”ための取り組みです。
リテンションの強化は、次のようなメリットをもたらします:
- 獲得よりも維持の方がコストが安い(5倍以上の差があるとも)
- 顧客の継続によってLTV(顧客生涯価値)が大幅に上がる
- 離脱率が下がれば、広告などに頼らずとも売上が安定する
- 継続ユーザーが口コミを生み、新規獲得にも貢献する
たとえば、1,000人のユーザーがいて、毎月10%が解約していると、1年後には約28%しか残りません。でももし解約率を5%にできたら、同じ期間で残るユーザーは約54%まで増えるのです。これは“積み重ねる力”の違いです。
つまり、リテンションは売上や利益を“守る”だけでなく、“広げる”ための武器にもなります。
“離れない理由”をつくるのが、これからのマーケティング。つなぎ止めるんじゃなくて、“続けたくなる仕組み”がカギなんだよ。

2. 解約の理由を知る:本当の原因に向き合う
解約率を下げる第一歩は、「なぜやめたのか?」を正しく理解することです。よくあるのが「価格が高い」「使う時間がない」といった表面的な理由ですが、その裏には“もっと深い原因”が隠れていることも少なくありません。
「期待とのズレ」に注目する
- サービスに感じていた期待と、実際の使用感が違ったとき、人は離れやすくなります。
- たとえば「手軽に始められると思ったのに、設定が難しかった」「サポートがあると聞いていたけど返信が遅かった」など、最初の印象とのギャップが大きいほど不満につながります。
感情的な違和感や“不満の芽”を拾う
- ちょっとした誤解、不快な対応、放置された感覚など、小さな違和感が積み重なると解約に至ります。
- こうした声は数値に出づらいため、自由記述アンケートやカスタマーサポートのログから拾い上げることが大切です。
データと感情の両面から原因を探る
- 解約理由を「カテゴリー別」に分けて整理することで、施策を打つ優先順位が見えてきます。
- NPS(ネット・プロモーター・スコア)を時系列で追い、満足度の“下がり始めた時期”を特定すると、問題が起きたタイミングも推測できます。
解約というのは、突然起きるのではなく、徐々に気持ちが離れていった結果です。その「はじまり」に気づけるかどうかが、改善のポイントになります。
3. リテンションの基本施策
リテンション向上のためには、ユーザーが最初に感じる“第一印象”から、日常の“使い続ける理由”まで、段階ごとに仕組みを用意することが重要です。
初期体験の最適化
- 初回ログイン直後に何をすべきかがすぐにわかる「オンボーディングガイド」を設計する。
- チュートリアル動画やステップ形式の導入画面で、“迷わずスタートできる”体験を用意する。
- 初期設定や操作ミスを防ぐサポートチャットやポップアップヒントを配置し、不安を感じさせない導線を整える。
利用継続の工夫
- 毎週・毎月の新機能追加やコンテンツ更新を予定として示し、「続ければもっと使える」期待を作る。
- 利用状況に応じて、活用事例や機能のおすすめをパーソナライズして通知する。
- ログイン率が下がりはじめたユーザーには「最近見てないあなたへ」などやさしいリマインダーで再接点を設計。
フォローアップの習慣化
- 一定期間使っていないユーザーには、価値の再提示や成功事例を紹介するリカバリーメールを送る。
- 継続○日後・○週間後など、あらかじめ設計されたステップメールで段階的にコミュニケーションを取る。
- ユーザーの行動ログに基づいて、「最近○○していませんか?」といった能動的なリーチも効果的。
このように、単発のアクションではなく「仕組みとしての継続支援」が、離脱を防ぐうえで非常に大切です。
4. 感情に寄り添うコミュニケーション
顧客との関係性を深めるには、「機能」や「価格」だけでなく、対応や接し方から伝わる“感情的なつながり”が大きな影響を持ちます。
クレーム対応は“共感”が出発点
- クレームに対しては、事実の説明よりも先に「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません」など、共感を示すことが大切です。
- 感情を受け止めてもらえたと感じることで、相手のトーンが落ち着き、話を聞いてもらえる土台ができます。
“冷たくないテンプレート”を使う
- 自動返信やテンプレート文も、少しのひと言を添えるだけで温かみが生まれます。
- たとえば「○○様」「ご連絡ありがとうございます」「状況お察しします」といった言葉を入れるだけでも、“人間らしさ”が感じられます。
パーソナルな接点をつくる
- 誕生日、登録日、継続3か月記念など、小さなお祝いメッセージは「覚えていてくれた」という特別感を演出します。
- サービス利用の節目に「最近のご利用状況を見て、こういった機能もおすすめです」といった提案も、気配りとして喜ばれます。
トーンとタイミングに気を配る
- お礼、労い、ねぎらいの言葉をタイミングよく届けることで、信頼感が高まります。
- 対応の文面も「命令形」「機械的な表現」を避け、やわらかい口調を意識しましょう。
“このサービス、ちゃんと見てくれてる”って思ったら、なかなかやめられないよね。人と人のつながりって、そういう小さな気配りでできていくんだ。

5. データを活かした継続支援
リテンションを強化するには、「誰が」「いつ」「どのように」離れそうなのかをいち早く察知することが大切です。そのためにデータを“感覚ではなく根拠として”活用する視点が求められます。
離脱の予兆を捉える指標を設定する
- ログイン頻度、利用回数、直近の操作ログなどを定点観測し、「活動が鈍くなった層」をリストアップ。
- 一定期間利用がない・一部機能しか使っていないユーザーには、再利用を促すキャンペーンやパーソナル提案を。
セグメントごとの分析で優先順位を明確にする
- ユーザー属性(業種、年代、契約期間など)で分類し、どの層が特に解約しやすいかを把握。
- リスクの高いグループに対しては、専用のオンボーディングやサポート強化を施すなど、打ち手を先回りして準備。
ユーザーの行動と心理をセットで見る
- 顧客満足度アンケート(CSAT)やNPSの結果を行動ログと組み合わせて、「不満が生まれた瞬間」を特定。
- ヒートマップやクリックログを使って「使われていない箇所」「迷いやすい導線」を把握し、UX改善につなげる。
“感覚的な運営”から“データに基づく対話”へ。そうすることで、継続支援はより効果的でやさしいアプローチになります。
6. リテンションをチームで支える仕組み
リテンションは、ひとつの部署だけで完結できるものではありません。継続率を上げるためには、チーム全体が“共通の目的”を持ち、情報とアクションを連携させる必要があります。
サイロを越えて協力する体制を築く
- カスタマーサポートはユーザーの生の声を持ち、開発チームはサービス改善の鍵を握り、マーケティングは行動データと施策を設計します。それぞれが独立せず、連携して情報を循環させる体制が重要です。
「離脱の背景」を社内で共有する
- 解約理由やNPSの低下などを、単なる数値として扱うのではなく「どんな感情がそこにあったか」を共有。
- 社内チャットや定例会で「今週あった解約理由TOP3」「その対策案」を発信するなど、“離脱に向き合う文化”を育てる。
リテンションKPIを全社で見る
- 継続率や解約率を、経営指標としても定期的に可視化する。
- サポートの対応時間、UX改善スピード、再ログイン率などのサブKPIも部署ごとに設定し、“全員が貢献できる設計”にする。
改善のサイクルを回す場をつくる
- 月1回のリテンション施策レビュー会を設け、成功事例・改善中の事例を共有。
- ユーザーの声をきっかけに、機能改善やチュートリアルの改善などを小さく始めて、継続的に回していく。
リテンションって、誰か一人の仕事じゃないよ。みんなで見て、みんなで防ぐ。それが“ユーザーと長くつながる”ってことなんだ。

7. まとめ:選ばれ続けるブランドになるために
リテンションマーケティングは、派手な施策ではないかもしれません。しかしその本質は「サービスがユーザーとどう向き合うか」を問い直し、関係を丁寧に育てていく活動です。
今は、商品やサービスの機能や価格で差別化するのが難しい時代です。その中で「ずっと使いたい」と思われるブランドになるには、信頼・共感・安心感といった“人と人の関係性”の延長にある価値が不可欠です。
- 初期体験でつまずかせない
- 利用中に「気にかけられている」と思ってもらう
- 離脱しそうな時にやさしく声をかけられる
- 困ったときには誠実に寄り添う
そうした一つひとつの積み重ねが、「このサービスにして良かった」「続けたい」と思わせるブランドをつくっていきます。
そして、リテンションの取り組みは、サポート・開発・マーケティングのすべての現場とつながっています。だからこそ、チーム全体で取り組むことが必要であり、そこに“企業としての信頼”が宿るのです。
“契約してもらう”ではなく、“選び続けてもらう”へ。
その視点に立ち、日々の接点を大切にすることが、リテンションを成功へ導く一番の近道です。
離れにくいって、つまり“好きでいてくれてる”ってことなんだよ。そんなサービスは、きっと長く愛されるよ。
